-*【○○】のすゝめ*-

くろねこ 3000文字チャレンジ
くろねこ
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とぷん。

  とぷん。

 とぷん。  ちゃぷん。

 体がゆっくりと沈んでいく。
 ……しずんでいく。
 沈んでいくと思えば、浮いていく。

 自分のものである手足はゆらゆらと、どこか、心地よく。
 耳に届く音が、柔らかく体に入り込み、どこか、心地よく。

「――――」

 ただゆらゆらと沈んで、浮かんでと繰り返していると、ざぁ……と急に視界が開けた。
 ぽた、ぽた、と足元に落ちるしずくに自然と視線が向き、雲のような、綿菓子のような地面に一度瞬きを落とす。
 裸足の下に広がる地面、落ちたしずくはシミをつけることなく、消えていった。


「やぁやぁやぁやぁ! おめでとう! キミは記念すべき123億人目の人間だ!」

 と。
 音らしき音がない、いやに静かな世界に、いやに、バカでかく良く響く声が通った。
 思わず視線を上げれば、大きな口をにぃ、と弧に歪ませた若い青年。

「いや~、本当はもっとこう! スリーセブン!! って感じで777億人目が良いかと思ったんだけれどね! 営業がさ~、”そんなんじゃいつまで経ってもお前の部下が増えない、つまるところ俺の部下が増えない。ただでさえ担当世界ではまだ120億人だっていうのにいつになるんだ”……ってうるさくってさぁ。あ、でもキミで123億人になったけどね!」

 少し早口にまくしたててくる青年が、ぽんぽんぽんぽん、と肩を叩く。

「まぁガミガミうるっさいしー? しゃーないから、123億人目のキミにしたってわけだ! いちにっさん! なんかイイよね! いやぁ、しかし本当に運が良いねぇ、たまたまそこに浮かんでたのをひっつかんできただけだけど!」

 肩を叩かれ続ける――背丈は、体つきはまるで少年か――黒い影が、微かに首をかしげる。
 その様子を見て青年は、すぅっと目を細め、口端が耳もとまで届きそうなほどに笑み、一歩後ろへと下がった。
 そしてすぐに片腕を影へと伸ばし、それはそれは、楽しげな声で告げる。

「改めて、おめでとう!! キミは転神をすることができる!!」

【転神のすゝめ】

 青年と黒い影は、街を歩いていた。

 がやがやとした街並み、ゆったりとした、というよりも、ほぼほぼ布を巻き付けただけのような衣服を身にまとった人々――曰く、神々。
 ただ、歩いている限り、地面が綿のようなものになっていることと、その衣服と、少し古ぼけたような街並み以外は、至って「普通」に見えると影は感じた。

「いや~ね、神々の国つってもこんなもんなのよ。神によっちゃあれよ、世界を作っちゃって、来たる日まではのんびり過ごしてるヤツもいんの。それで収入得てるんだからボロい仕事だよね~」

 ほら、お前たちの世界で言う不労所得ってヤツ?……と、けらけらと楽しげに笑いながら青年は告げる。
 言葉を発せない影は、わかっているような、わかっていないような、それでも相槌のように小さな頷きを返す。

 ここは、青年が言うには【神々の国】であるらしい。
 にわかには信じがたいが、しかし自分の姿と言い、妙に古臭い街並み、人(神?)と言い、この変な青年と言い、今歩いている地面と言い、決して【自分が過ごしてきた場所】ではないように思えた。
 彼についていきながら、街や、そこに生きる神を紹介される。

 何やら難しいことを説いている男性。
 周りには、うんうん、うんうん、と頷いている黒い影。
 ――神の見習いだ、と青年は告げる。

「意外? あぁやってね、適当に引っ掛けてきてなんかすっげーこと言ったりしてんの。そこから神になれんのって、ま、どんだけいるんだって話だけどー?」

 道に敷かれた大きな布、その上に様々な商品を置いて、その向こうでうつらうつらとしている男性。
 影や神が集まって、わいのわいの、と勝手に盛り上がり、時折男性を小突いてははっとする彼と一緒に笑っている。

 ――あそこに置いてあるのは、ガラクタであり価値あるものだ、と青年は告げる。

「神や影によって、嬉しいものそうでないものってあるかんね。お前の世界でもそんなもんだったろう?」

 大空の店、屋台を引いて、朗らかに笑いながら影を、神を呼び寄せている女性。
 出しているものは、この世界の食事らしい。
 ――なくても生きてはいけるけど、と青年は告げる。

「でもま、楽しみのひとつっちゃーひとつだけど。おねーさーん!その串肉一本ちょうだい!……え?ちょっと高くなーい?あいっかわらずそういうもんしか出さねーのなー。安いのちょーだいよー」

 ……青年と女性の、軽い言い合いが始まった。

 ぽつんと取り残された影は、ぼんやりとその様子を眺めている。
 彼の腰に吊った布袋は、ずしりと重そうで、少し動くとちゃりちゃりと金属がぶつかる音がした。
 その布袋を指さして、女性がまくし立てるように言葉を並べ、青年が至極楽しげに片手をひらひらと振り、言い返す。

「……まったく、あの坊っちゃんは」

 ふと、ため息と静かな声が後ろから聞こえた。
 見上げると、目が細く、眼鏡をかけた真面目そうな男性が立っている。

「ですがまぁ、悪い奴ではないんですよ。
 少しちゃらんぽらんで、不真面目で、口も態度も悪い奴なのに、妙に周りを惹きつけて」

 ふ、と自然と、柔らかく頬をほころばせて、ゆるりと影へ視線を落とす。
 伸ばされた片手が、ゆっくりと頭の辺りを撫でていく。
 変に、心地よく、思えた。

「あなたは、彼が拾ってきたそうですね。街を見ていたんでしょう?
 ……どうですか、皆が皆、生き生きとしているでしょう」

 男性から視線を外し、周囲を見る。
 ほとんどの神が朗らかに、活発に、快活に暮らしているように思えた。
 黒くうごめく、自分と同じような影たちも、その動きはきびきびとしていて、真っ黒だというのに輝いているようにさえ思えた。

「もちろん、転神は良いことだけではありません。
 もう二度と人へ戻れない、人の輪廻へは戻ることができない。
 しばらくは、街にいる”あの子”らのように、下働きや学ぶ時間が必要ではあります」

 街をうごめく影らへと、視線を向ける。
 話を必死に聞くもの、小さな石ころのような、ガラスの破片のようなものを道端で売るもの、言葉は聞こえないが何かをアピールしているようなもの。

「衣類、住居はこんな空間ですからね。最低限は与えられますが、本当に最低限です。
 何をしても自由ですが、自由というのはすなわち不自由。
 勉学に励むも、仕事に精を出すも、ただぼんやりと過ごすも、ここから出ていくのも、
 あなたの意思で決められる故に、”わからない”からこそ、”何をしても良い”からこそ、身動きが取りにくいでしょう」

 ここまで連れてきてくれた青年を、視界に入れる。
 しゃーねーなぁ、と言いつつも、何枚もの金貨を女性へ渡し、一冊の本を手にした。

「ある意味では、もしかしたらあなたの世界とそう変わらないかもしれません。
 様々な神がいます、様々な見習いがいます。……けれど、ひとつだけ」

 そこで言葉を区切られ、影は男性を再び見上げた。

 柔らかく、やわらかく。

 その声音も、口元にゆるく描かれた笑みも、こちらを見る眼差しも。
 彼が、薄い桃の唇に、そっと人差し指を立てた。

「俺や、彼のもとで励むのであれば。人へ、人の輪廻で得られないものを、必ず手に入れられます」
「そうそ! ボクとコイツは結構世話焼きだよー? 神の中でも少数精鋭、ボクがひっか……拾ったキミは――変えられる!」

 いつの間にか、男性の隣まで来ていた青年が、やはり口端を釣り上げるように笑いながら立っていた。

「転神、おすすめですよ」「転身、おすすめだよ!」

(…………――)

 黒い、影は、

→【選択してください】

 神になる!
 人に戻る!

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こぼりたつやさん(@tatsuya_kobori)主催、3000文字チャレンジに参加しました。
今回で3回目、また小話かよ!!ってところですが、小話好きなので。好きなので。

なんか趣旨とは違う気がするようなしないようなきっと気のせいですねうん!!
「あなたのおすすめを語って下さい!」ってことですけど良いですか!(事後報告)
でもおすすめが絡んでれば良い!って言ってたから!!

強いて言うなら創作とか小話作りがおすすめです(逃げの一手)

また次回が楽しみです。
参加できそうなら参加します。
楽しい企画ありがとうございました!!

みんなも3000文字チャレンジやろう!おすすめだよ!

2回目のお題:3000文字月曜日
-*歩む道先、選ぶ朝*-

 

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