-*フレグランス、売ります、買います、作ります*-

フレグランス、売ります、買います、作ります 3000文字チャレンジ
フレグランス、売ります、買います、作ります
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――世界は、香りで満ちている。

世界に色があるように、音があるように、香りもまた人と共に消えることなく存在する。
そして、多くの人間が「良い」とする香りは、フレグランスとして――香水やコロンのみならず、化粧品であったり、石鹸であったり、芳香剤であったり、様々な商品に使われる。

人ひとりが通れるほどの細い路地を進んだ先、少し古く感じる趣の、アンティーク調の店が一軒。
ともすれば隠れ家のような喫茶店めいたその店の、大きな窓から中を覗けば、色とりどりの小瓶が棚に並んでいる様子がうかがえる。
小瓶の形はごくシンプルで、蓋部分がかわいらしく細いリボンで飾られた、円筒状のもの。

それらに囲まれ、店の奥には店主であろう年若い男性が、店の扉を開ける人の気配とリリン、というベルの音に腰を上げる。
口元にふわりと弧を描き、頭を軽く下げて口を開いた。

「いらっしゃいませ。 Sentimentoへようこそ」

■◆『【フレグランス】売ります』◆■

店の中に足を踏み入れると、店内の木の香りに混じり、かすかに甘い香りや、さわやかな香りが鼻腔をくすぐる。
しかしそれぞれが主張しすぎることはなく、不快にならない程度のそれらは、店独特の香りを作り出していた。

店舗内に足を踏み入れたのは、10代後半から20代前半ほどの女性が二人。
少し奥まった場所にたたずむ店の雰囲気と、並ぶ小瓶のかわいらしさに思わず足を運んだ。

「わぁ、きれーい」
「あっ……!この色かわいい……」

あまりうるさくならない程度に声を潜めながら、棚に並べられた小瓶を眺めていく。
そんな二人に店員が歩み寄り、目を細めて朗らかに微笑みながら声をかけた。

「お気に召されましたか」
「あ、はい!ここって、香水を売っているお店なんですか?」
「そうですね、香水も販売しておりますが、化粧品や石鹸の香り付けをする――フレグランスを取り扱っています」
「へぇー!」

問いかけへの返答をしながら、先ほど彼女が視線を向けていた、薄桃色の小瓶を手に取る。

「こちらは、華やかながらもあまり強くない、甘い香りで当店でも人気なんですよ」

リボンを解き蓋を開け、どうぞ、と小瓶の口を女性二人に向けた。
ふわりと香るのは、甘さの中に華やかさを秘めたもので、しっかりとした香りを感じるにも関わらずその主張は強すぎず、なんとも不思議で、幸福な気持ちを得た。
小瓶を良く見れば、ワンポイントの飾りのようにアザレアの花が描かれている。

「すごく良い香り……!」
「ほんと!香水でも良いけど、でも、どっちかっていうとアロマとかで使いたいな」

二人には大いに好評だったそのフレグランスの蓋を閉じ、リボンを結びつけながら店員が緩く首をかしげた。

「アロマ、良いかもしれませんね。少し香りを薄めれば、リラックス効果もあるでしょう。なんでしたら、少しお値段に上乗せとなりますが、当店でご用意いたしますよ」
「本当ですか!」

店員の笑顔と、告げられた言葉に女性の表情がぱっと明るくなる。
他のフレグランスの小瓶や、香りについて話を聞きながら、彼女たちはアザレアの小瓶を手に、店を去っていった。

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■◆『【フレグランス】買います』◆■

リリン、と店の扉につけた鈴が控えめに店内に響く。
足を踏み入れたのは、少し白んだ髪の初老の男性。
棚に色とりどりに並ぶ小瓶をぐるりと見渡し、すぐに歩み寄ってきた店員に片手を上げた。

「やぁ。繁盛はしているかい」
「えぇ、おかげさまで。それなりには」
「そうかい」

若干気難しそうな、眉の間にしわが寄った男性が、店内の勝手を知っているようにすたすたと奥まった場所へと歩いていく。

「本日は、どういったご用件で」
「私が来るときは、大概決まっとろうが」

訪れた用件を尋ねた店員に、くく、っと喉で笑いながら男性が肩を揺らす。
どか、と店内奥の古ぼけた木の椅子に腰を下ろすと、しわが深く刻まれた指で自分の胸をとん、とん、と叩いた。

「今日も、買取を頼むよ」
「かしこまりました」

店員が、椅子に腰掛ける男性の隣に歩み寄り、片膝を立ててその手を取る。
黒いエプロンのポケットに片手を入れ、何も入っていない、柄もない小瓶を取り出し、彼の手の甲に底を当てる。
――しばらくそのまま互いにじっと動かずにいると、手の甲に乗せられた小瓶の中身が、じわじわと灰白色に染まっていく。
さらに数分、そのまま留まっていると、小瓶には浮かび上がるようにエリカの花が刻まれ、描かれた。

くっきりと描かれたことを確認すると、店員が手を離しはちみつのような甘い香りを確認してから、蓋をする。
そして店に並ぶ商品と同様に、白く細いリボンで蓋部分を飾った。

「お待たせいたしました」

その小瓶を大切に両手で持ち、深く頭を下げた。

「ありがとう」

男性の、少し安堵が混じる声音。
その声に店員が顔を上げれば、店へ訪れた当初よりも僅かに晴れ晴れとした表情が視界に入る。

「買取金額ですが、」
「あぁ、いや。今回も、商品をひとついただければそれで構わん」
「かしこまりました」

ゆっくりと、のんびりと、男性が店内の棚を眺めていく。
ふと目を留めたのは、赤みが強い桃色の小瓶。
それに手を伸ばし、店員へ視線を送り、頷きを確認してから蓋を開ける。

ふわ、と香ったのは、洋菓子のようなやさしい香り。

「……今日はこれをいただくかな」
「ありがとうございます」

男性が選んだ小瓶を包装し、小さな紙袋に入れて彼に手渡す。
きびすを返しかけた彼が、ふと振り向いて首をかしげた。

「私のあれは、どうだね。売れているのかね」
「えぇ。お客様と同年代の方が多いですが、最近では若い方でも買われていきますよ」
「……そうか」

店員の返答に短く返した男性は、ほんの僅かに眉を下げ、寂しそうに笑みを浮かべた。

■◆『【フレグランス】作ります』◆■

夕刻、日が傾き始め、空の紫紺が濃くなり始めた時刻。
【closed】の看板を店の扉にかけようとしたところで、裾をくい、と引かれた。

「……いらっしゃいませ」

視線を落とすと、ランドセルを背にした齢10代ほどの少女。
店員がぱち、と一度瞬きをするも、すぐに頬を緩めて目線を合わせるように膝を折る。

「本日は、どういったご用件でしょう?
「あの、あのっ……」

地面へ視線を落とし、時折ちらりと店員を見ながら、少女が口ごもる。
その様子にせかすこともなく、店員は微笑をたたえたまま、ただ答えを待つ。
しばし後、少女が意を決したように顔を上げ、ランドセルの肩ひもをぎゅっと強く握り締めて口を開いた。

「おじいちゃんが言っていたのを聞いたんです!かなしくならなくなる、お店があるって!」

少女の返答に、店員が今度は若干驚いたように何度か瞬いた。
首をかしげながら、彼女の頭を優しく撫でる。

「半分正解ですが、半分はずれですね。……それで、お客様はどうなさったんですか?」

撫で続けながら、同じくらいに優しい声音で問いかけると、少女がぽろぽろと大粒の涙をこぼし始めた。
たどたどしく、時折嗚咽でうまく話せなくなりながらも、店員は頷きを返しながら話を聞く。
ぎゅう、と肩紐を握り締めて白くなっている手を撫でて、指をほぐしそこから外しながら店員が小さく頷いた。

「……なるほど。何日も前にけんかをしてしまったお友達と、話せなくて、遊べなくて、悲しいんですね」
「ぜっ、ッ、ぜっこぉ、って、いわれた、のっ……!わた、わたし、ごめんねってした、ぃんだけどッ……できなくて、……ひっく、ッ……もう、ずっと、……この、ままなのか、なぁって……!」
「どうして、ごめんね、とできないんですか?」
「だってぇッ……!ゆる、してくれなか、ったらぁ……!こわいよぉ……ッ!」
「なるほど。……悲しくて、寂しくて、でもこわいから、……”悲しくなくなるお店”ですか」

店員の言葉は半ば独り言で、ぐすぐすと泣き続ける少女に腰を上げ、待っていてください、と告げる。
店の前で止まらない涙を必死に手でぬぐう少女が待つことしばし――リリン、と音と共に、店員が小瓶を片手に出てきた。
再度彼女の目線に合うように膝を折ると、小さな片手を取って小瓶を渡す。

小瓶に色はなく、また、リボンもついていない。
しかし、他のものと比べて良く見えないものの、エーデルワイスの花が、薄くガラスに刻まれていた。

「お友達が、大好きですか」
「う゛んッ……」
「仲直り、したいですか」
「したいぃ……っ」

それなら、と小瓶をぎゅっと少女に握らせる。

「がんばってみましょう。これは僕が調合したものです。中の水をハンカチにつけてください。……わずかばかりの時間ですが、あなたを後押しいたします」
「……?」
「大丈夫です。これは勇気のフレグランス。これをつけたハンカチを持って、がんばってください」
「……ゆう、き……」
「はい。……お代は、またいつか、このお店に来ていただければ、それで」

くす、といたずらっぽく笑った店員に、涙でぐしゃぐしゃになりながらも、嬉しそうに少女は笑顔を向けた。

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■◆『【こころのフレグランス】いかがですか?』◆■

薄く柔らかい月の光が照らす、人通りはもうない、薄暗く狭い通りの向こう。
大きな窓ガラスから、薄暗くともしている灯りが見える。
【closed】の吊るし看板を、店員が向きを直しながら引っ掛けた。

そして、こちらを振り向くと、薄く笑みを浮かべながら頭を軽く下げる。

「ご足労いただき、ありがとうございました。またのお越しを、お待ちしております」

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こぼりたつやさん(@tatsuya_kobori)主催、3000文字チャレンジです。
文章を練り上げてぶん投げるだけなのでラクですね(←

半分冗談しつつ、第11回目のお題は、【フレグランス】でした。
フレグランスって、香料全般のことを指すんですね。
香水とか、その系統だけかと思ってた。

そして参加もはや4回目。
どうしようかな~~~~~~フレグランスってしゃれおつだな~~~~~~っていうかそもそも意味理解してないし香水とかもそんな興味あるわけじゃないし女子力低いのばれるわ~~~~~~なんてぼんやりぐるぐるしながら、気づけば打ち込んでるんだから3000文字チャレンジってすごい。

自分なりに【フレグランス】を中心に話をまとめたつもりですが、さてはて。
ちょっと不思議でファンタジーな、香りのお話になっていればいいな。

そういや毎回毎回、何気なくぼんやりと仕込んでいる伏線ともいえない伏線というか意味というか、そんなことを練りこんでいるんですが、今回はちょろっとだけ落としておきます。
今回割りとダイレクトですが。
知った上でもう1回読むと、「あーーーー」ってなるんじゃないかななんて目論んでます。

でも、感じ方や解釈はそれぞれですよう!

【Sentimento(センティメント)】
 感情、気持ち。イタリア語。

【アザレア】
 色:赤、ピンク、白、紫
 節制(赤)、禁酒、恋の喜び
 あなたに愛されて幸せ(白)、充足(白)

【エリカ】
 色:ピンク、白、赤、オレンジ、黄、紫
 孤独、寂しさ、博愛、良い言葉

【スイートピー】
 色:赤、ピンク、紫、白、青
 門出、別離、ほのかな喜び、優しい思い出

【エーデルワイス】
 色:白
 大切な思い出、勇気

こういうの絡めるの、好きなんです(笑)

ということで、また次回も参加できたらいいなー。
3000文字チャレンジと言いながら、今回軽く上回ってしまったけれども(まとめるのが苦手)

ちなみにですね、小話は私は思いつくまま勢いで書いています。
ショートショートくらいの長さですからねー、勢いって大事!!

【3000文字月曜日】
歩む道先、選ぶ朝

【3000文字おすすめ】
【○○】のすゝめ
3000文字登山のすゝめ

【3000文字橋】
ひととせの夏、橋の夢

コメント

  1. […] -*フレグランス、売ります、買います、作ります*-その店は、大通りから外れた細い路地裏の先にひっそりと佇んでいた。店の前を通ると、ふわり、と甘い香りがした。neko-tuki.com […]