-*す き な ば し ょ*-

好きな場所 3000文字チャレンジ
好きな場所
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■朝の会をはじめます

初めてみんなの前にお披露目したときは、それはもうぴっかぴっかのきれいな体だった。
丁寧に丁寧に、何日も何日も時間をかけられて作られた体は、自慢だった。
お披露目の日、これからの期待、わくわくを胸にきらきらと輝く目をしていたみんなと同じくらい、私はぴかぴかとしていたように思う。

いや、言い切る。
そうであった。

私は当時、とても若かった。
生まれたばかりで、最後の最後まで自分の役割を全うしようと張り切っていた。

みんなの――彼、彼女たちの役に立てるよう、そして多くの時間を見られているからこそ、気持ちの上では胸を張っていた。
そして、私がいるこの場所が静かになってからどれほど時間が経過したかも分からない、今。
私は今でも胸を誇らしげに張って、最期の日を待っている。

■春

生まれたばかりの私が、木材の臭いや染料の臭いが充満する場所から移動させられたのは、新しい木の香りが漂う学校だった。
木造校舎、と言っただろうか。
まだまだ新築で、自分と同じくらいぴかぴかで、多くの子供たちを待つ小学校だった。

場所は、私は外をよくよく見たことはないが、どうやら山間にある学校だったらしい。
近くにはいくつかの集落が寄り添いあい、さらにいくつかの村がある。
ここに住まう人々は決して多くはないが、それでも年々子供たちが生まれ、育っていく。

遠く離れた、山を下りた場所にも校舎があるらしいのだが、私は見たことがない。
けれど、髪が乏しい少しくたびれたスーツを着た人が、私を窓の外から見ながら、そして校舎を見上げながら「これで子供たちも大変な通学路を通らなくて済む」と僅かに涙ながらに言っていたのを覚えている。

きっと、この学校ができるまで子供たちは満足に学校に通うことも、通えたとしても大変な時間をかけていたに違いない。
私はここに来たときよりもずっと、子供たちが入学してくるその日を楽しみに待っていた。

桜咲く、というにはまだ少し早い時期。
まだ窓から見える桜の木に桃色はほとんどなく、硬いつぼみだった季節に、その日は訪れた。

それまで静かだった校舎が、にぎやかになった。
小さな机、小さな椅子、後ろにはたくさんのロッカー。
そこに、子供たちの高くかわいらしい声が急に響き始める。

正直、最初はちょっとうるささも感じたことは否めない。
それまで静かに暮らしていたのだから、慣れていないこともあったと思う。
え、これ、ずっと一生続くの?と不安に駆られたものだ。

でも、そんなわずらわしさはすぐに失せた。

真新しい私の体に、白いチョークでかつかつと教師の名前が、ひらがなで書かれていく。

「はーい!みんな静かに!」

教師が何度か騒ぐ子供たちを静めて、私の体に初めてかかれた文字を軽く叩き、自己紹介をする。
この教師は、これからこの教室に集まった子供たちの担任をすることになる。
じっと彼を見つめ、そして書かれたひらがなへと視線を移す子供たちに、子供たちの未来に輝く目に。

私は、ない胸が熱くなったのを感じた。

■夏

山間部、自然だけはとても多いとされるその地域の夏は、正直とてもうるさい。

何がどううるさいというと、朝から夕方にかけて、セミやら何やらの虫が非常に騒がしい。
夕方になるとカエルの鳴き声も合わさって、とんだ騒音大合唱だ。

とはいえ、その季節が嫌いなわけでもない。
この時期になると子供たちは薄着になり、汗だくになりながら授業を受ける。
そして、男の子、女の子、共にきゃあきゃあと歓声を上げながら服を脱ぎ、水着に着替えて外へ走り出していく。

この教室からは、そして私の位置からは、実はプールが少し遠くに見える。
プールというものがどういうものか、最初のうちは良く分からなかったが、夏になると毎年子供たちが嬉しそうに「今日はプールの日だー!」と話しているのを聞く限り、良いものなのだろう。
じきに私は、「涼しくなれる水浴び」ということを覚えた。

この教室から見えるプールの様子は、そこまではっきりと見えるわけではない。
ただ、夏の強い太陽の日差しの下、きらきらと舞う水しぶきがとてもきれいだった。
なるほど、これが涼しげと言われるものか、とひとり納得したりもした。

歓声や、水しぶき、水を叩く音はここまで聞こえる。
基本的に真夏は窓を開けっぱなしなので、外の音がダイレクトに聞こえた。

私は子供たちの声が、楽しげにしている様子が大好きだ。
だから、虫の声でうるさい夏の季節も、彼らがいるとなぜか映えるように思えるし、良いものだと思えた。

「夏休み」と呼ばれる時期になると、子供たちが訪れる時間が減って少しさびしくもなるくらいだった。
ちょっとだけ、騒いでいる子供たちで溢れかえるプールがうらやましくなるくらいに。
この時期を過ぎると、みんなまた登校してきて、真っ黒になっていてそれが少し笑えてしまうのだが。

うるさい夏も、悪くはない。

■秋

教室の窓から見える山の色が、緑だけではなく赤や黄色に染まっていく季節。
薄手だった子供たちの衣服も長袖になり、すごしやすくなったのか教師も、彼らもどことなく静かに授業を行い、受ける。

この時期は「運動会」と言って、外で様々な催しもの、勝負の練習を行っている様子を良く見るようになる。
ここからも見えるグラウンドでは、この教室で過ごす子供たちだけではなく、他の教室で過ごす子供たちも集まって練習を頑張っていた。

夏よりも格段にすごしやすくなった秋。
子供たちの親という人たちが1日だけ訪れたり、外で運動をしたり、遊んだり、運動会でいつもよりも外がにぎやかになったりと変化が数多く、楽しい季節だ。

そうそう、子供たちが朝にだけグラウンドに集まって、その日の夕方に帰ってくる日もあった。
季節を何度も繰り返して知ったことだが、この日は「遠足」と言って、外の活動や勉強をしているらしい。

……子供たちがいない教室は、少しだけ、寂しい。
上の階の教室からは子供の声がしてくるので、おそらく教室ごとによって遠足の日は違うのだろう。
いや、そうでなくても休日だと静かで寂しいのだけれど。

ただ、窓から差し込む秋の柔らかな日差し、山々の、色とりどりの様子を受けて差し込んでくる光は美しく、静かな教室のそんな日中は私のお気に入りだ。
ずっとずっと、記憶に残していきたい。

子供たちだけではない、教室の、学校の思い出の記憶として。

■冬

この山間部の冬は、どうやらとても厳しいものらしい。
しんしんと降り積もる雪は、どける作業をしなければ人が通れないほどのもので、グラウンドは積もり積もった雪で真っ白だった。

つまり、あれだ。
一面の銀世界、というやつだ。

この季節になると子供たちはもこもことした衣服を身に纏い、厚着に厚着を重ねて登校してくる。
教師たちも例外ではなく、締め切った教室にストーブをたき、朝には「さむ、さむ」と呟きながら手を温める様子を見られた。

山の冬はとても静かなものなのだろう。
秋よりもさらに、昼も夜も虫がいないせいか静かなこの空気は、これまでがにぎやかだったこともあって少しだけくすぐったいような、寂しいような、物足りないような気持ちになる。

とはいえ、子供たちが登校する日はこれまで通りにぎやかで、特にクリスマスという時期が近づくと学校で配膳される食事が豪華な日があるらしく、その予定の紙を見ながら楽しげにしている様子を見られた。
それだけではなく、パーティだとか、プレゼントだとか、そんな話も聞こえてくる。

それから少しするとまた、子供たちは休みに入ってしまう。
……正直、冬のこの時期は夏のそれよりも、苦手だ。
人が、ほとんど来ないから。

救いは、夏の休みの時期ほど期間が長くないことか。
休みが過ぎれば子供たちや教師も教室へと入り、またにぎやかな日常を送ることができる。

静かな教室で行われる授業。
休み時間ともなればすぐににぎやかになって、食事をして、また授業をして、彼らは帰って行く。

変わらないこんな日常が、私はとてもいとおしい。

■帰りの会をはじめます

季節はめぐりゆく。
四つの季節は変わることなく、1年を彩っていく。

訪れる季節を何度もまたぎ、繰り返し、1年、また1年と日々が過ぎていく。

この教室に人が訪れなくなって、どれほどが経っただろうか。
幾度もチョークで体を叩かれ、字を、絵を書かれたこの体も、もうその跡が無数に残るくらいに古ぼけてしまった。
それでも私は、今もなお胸を張っている。

そうそう、ついこの間、懐かしい面々の人々が訪れに来てくれた。
久々の「登校」だったように思う。

もうずいぶんと背も伸びて、顔もしわくちゃになってしまった人もいたし、あぁ成長したなぁ、と思えるくらいには若く見える人(それでもしわは刻まれていたけれど)もいた。
懐かしかった。とても、懐かしかった。

わからないわけがなかった。
日々をすごした子供たちは、もうこんなになるまで成長を遂げていた。

集まった彼らは口々にこの学校での思い出話を繰り広げる。

「……寂しくなるねえ、ここもなくなってしまうのか」

しみじみとした、しわがれた声が聞こえてくる。
……知っている。

この校舎は、もうじき取り壊されてしまう。
周囲に住まう人々が減り、子供たちが減り、しまいには来なくなったこの学校を、残しておく理由がない。
懐かしげに、少し寂しげな顔をして去っていく彼らを見送り、私はまた静かになった教室を見渡した。

何年、何十年。
私がすごした季節の数は、もうかぞえ切れない。
ぴかぴかだったこの体も、木造の教室も古くなり、埃を被り、とてもきれいだとはいえない。

それでも私は胸を張るのだ。
私は、私を、この教室を、子供だった彼らを、誇りだと思っているのだから。

この場所が――大好きだから。


あとがき

一人称視点って書くの難しいです。
いや三人称視点が簡単かっていうとやっぱり難しいのですが。

ということで、3000文字チャレンジ(@challenge_3000【お題:好きな場所】でした。
ちなみに私の好きな場所は家です。自宅です。家から出たくない。

このお題、だいぶふわっとしてますよね。
ものがこれ!!って固定されてるより、こういうふわっとしたお題の方が、割と難しいなぁって思ってます。

今回は、もひとつのテーマとして擬人化があります。
分かるかな、分かるだろうか……【黒板の擬人化】ということで、木造校舎のひとつの教室、黒板視点のお話でした。

その昔、小学校の頃、授業で【我輩は猫である】を扱ったとき、「擬人化したものを視点にしたお話を考える」というものがあったんですよね。

そのときも確か黒板を元に考えていたような。
別に物や動物が人型になったものだけが擬人化じゃないっていう……こういう話を考えるのは楽しいです。
人によって違うのも面白い。

それでは、最近3000文字しか書いてないな~しつつ。
次回のお題はなんだろうなぁ。

 

 

 

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